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生活習慣病と漢方

生活習慣病とは

生活習慣病という言葉はよく耳にしますが、私はあまり好きな言葉ではありません。なぜかは後でお話することにして、まず生活習慣病とは何でしょうか。
生活習慣病とは、1990年代頃に登場した言葉です。厚生労働省(当時は厚生省)によると、「食習慣、運動習慣、休養、喫煙、飲酒等の生活習慣が、その発症・進行に関与する疾患群」のことを指しており、次のような病気が含まれるとされています。

食習慣に関するもの:
インスリン非依存型糖尿病(いわゆる2型糖尿病)、肥満、高脂血症(家族性のものを除く)、高尿酸血症、循環器病(先天性のものを除く)、大腸がん(家族性のものを除く)、歯周病など
運動習慣:
インスリン非依存糖尿病、肥満、高脂血症(家族性のものを除く)、高血圧症など
喫煙に関するもの:
肺扁平上皮がん、循環器病(先天性のものを除く)、慢性気管支炎、肺気腫、歯周病など
飲酒に関するもの:
アルコール性肝疾患など

確かにこれらは「生活習慣が関与する疾患群」であって、これまでに行われてきた数多くの研究により証明されてきたことなのですが、しかし、生活習慣さえ整えればかからないというわけでもありません。例えば、高血圧、糖尿病、高コレステロール血症などは遺伝することが知られています。しかし、遺伝したら必ず発病するわけでもありません。
生活習慣病にならないためには、遺伝していてもしていなくても、生活習慣を整えることが最善の予防策であることには違いありません。あるいは生活習慣病になってしまった場合にも、その治療と並行して、あるいは治療に先んじて、生活習慣を整えることがそれでもなお大切であることは、知っておいてください。

1.高血圧

高血圧とはどういう病気か

高血圧は、文字通り「血圧が高い」という状態です。血圧は年齢とともに上がり、男性のほうが女性よりも高い傾向にありますが、ざっとみての人口の1/3ほどが高血圧です。

高血圧はサイレント・キラー(沈黙の殺し屋)

そもそも高血圧だと何か困ることがあるのでしょうか。
高血圧は脳卒中や心疾患を起こす主な原因となります。脳卒中(脳梗塞・脳出血)、心筋梗塞などは、急な頭痛・胸痛、麻痺、呼吸困難、意識消失などを伴い、死亡率も高い病気です。高血圧を放置すると、何年もかけてそういう恐ろしい病気になりかねないのです。とくにこれといった症状がない高血圧でも、やがてその人の命を奪ってしまうので、サイレント・キラーとも呼ばれています。
ほかにも、高血圧を放置するとやがては腎不全になり、これも放置すれば命にかかわりますから、人工透析や腎移植という治療が必要になってきます。また、脳の血管にも余計な圧がかかりますので、認知症を発症しやすくなるということもよく知られています。
これらの病気を予防するために、血圧をよい状態にコントロールする必要があるのです。

高血圧とは単一の病気ではなく、いくつもの病気からなる「症候群」である

高血圧の原因となる病気のうち、明らかになっているものは、じつはわずかで全体の1~2割程度です。腎実質性高血圧、腎血管性高血圧といった腎臓の病気、原発性アルドステロン症、クッシング症候群、褐色細胞腫といった腫瘍、甲状腺機能亢進症、大動脈炎症候群、大動脈縮窄症などによるものが知られています。これ以外の大部分の高血圧は「原因不明」です。

表1 高血圧およびそれに準ずるものに保険適応になっている主な漢方薬の一覧表(メーカーによって標記に若干差があります)
漢方薬名 どういう徴候・症状・体質(=証)に用いられるか
八味地黄丸 疲れやすくて倦怠感著しく、尿量減少して残尿感がある場合(または多尿で特に夜間多尿のもの)や、腰痛があってときに口渇があり、四肢が冷えやすく、時にはほてることもあるものの次の諸症に用いる:慢性腎炎、ネフローゼ、萎縮腎、膀胱カタル、頻尿、排尿困難、前立腺肥大、糖尿病、動脈硬化、高血圧、低血圧、陰萎、坐骨神経痛、下肢痛、腰痛、しびれ、脚気、浮腫、産後脚気、更年期障害、老人のかすみ目、老人性の湿疹、かゆみ
大柴胡湯 肝臓部の圧迫感があり、またはみぞおちが硬く張って、胸や脇腹にも痛みや圧迫感があり、便秘するもの、あるいはかえって下痢するもの、耳鳴、肩こり、疲労感、食欲減退などを伴うこともあるものの次の諸症に用いる:高血圧、動脈硬化、常習便秘、肥満症、黄疸、胆石症、胆囊炎、胃腸病、気管支喘息、不眠症、神経衰弱、陰萎、痔疾、半身不随
柴胡加竜骨
牡蛎湯
精神不安があって驚きやすく、心悸亢進、胸内苦悶、めまい、のぼせ、不眠などを伴い、あるいは臍部周辺に動悸を自覚し、みぞおちがつかえて便秘し、尿量減少するものの次の諸症に用いる:動脈硬化、高血圧、腎臓病、心臓衰弱、てんかん、小児夜啼症、不眠症、神経性心悸亢進、更年期神経症、陰萎、神経衰弱、神経症
黄連解毒湯 比較的体力があり、のぼせ気味で顔色赤く、イライラする傾向のあるものの次の諸症に用いる:鼻出血、吐血、喀血、下血、高血圧、脳溢血、血の道症、めまい、心悸亢進、不眠症、ノイローゼ、皮膚瘙痒症、胃炎、二日酔
真武湯 新陳代謝機能の衰退により、四肢や消化不良、腰部が冷え、疲労倦怠感が著しく、尿量減少して、下痢し易く、動悸やめまいを伴うものの次の諸症に用いる:胃腸疾患、胃アトニー症、胃下垂症、胃腸虚弱症、慢性腸炎、慢性胃腸カタル、慢性下痢、慢性腎炎、ネフローゼ、腹膜炎、脳溢血、脊髄疾患による運動ならびに知覚麻痺、半身不随、低血圧症、高血圧症、心臓弁膜症、心不全で心悸亢進、リウマチ、老人性掻痒症、神経衰弱、感冒
釣藤散 慢性に続く頭痛で中年以降、または高血圧の傾向のあるものに用いる。
大承気湯 腹部がかたくつかえて、あるいは肥満体質で便秘するものの次の諸症に用いる:常習便秘、急性便秘、高血圧、神経症、食当り
七物降下湯 身体虚弱の傾向のあるものの次の諸症に用いる:高血圧に伴う随伴症状(のぼせ、肩こり、耳鳴、頭重)
桃核承気湯 比較的体力があり、頭痛またはのぼせて便秘しがちな、左下腹部に圧痛や宿便を認め、下肢や腰が冷えて尿量減少するものの次の諸症に用いる:月経不順、月経不順による諸種の障害、月経困難症、月経時や産後の精神不安、更年期障害、腰痛、便秘、高血圧、高血圧の随伴症状(頭痛、めまい、肩こり)、動脈硬化、痔核、にきび、しみ、湿疹、こしけ、坐骨神経痛
防風通聖散 脂肪ぶとりの体質で腹部に皮下脂肪が多く、便秘し、尿量減少するものの次の諸症に用いる:便秘、胃酸過多症、腎臓病、心臓衰弱、動脈硬化、高血圧、高血圧の随伴症状(動悸、肩こり、のぼせ)、脳溢血、これらに伴う肩こり、肥満症、むくみ
通導散 比較的体力があり、下腹部に圧痛があって、便秘しがちなものの次の諸症に用いる:月経不順、月経痛、更年期障害、腰痛、便秘、打ち身、打撲、高血圧の随伴症状(頭痛、めまい、肩こり)
三黄瀉心湯
(コタロー)
のぼせて不安感があり、胃部がつかえて便秘がひどいもの、あるいは充血または出血の傾向を伴うもの。
高血圧症、動脈硬化症、脳血、下血、鼻出血、常習便秘。

2.高脂血症(脂質異常症)

脂質異常症の診断

脂質異常症は、それにかかっただけでは、初期には何の症状も起こしません。血液検査をしなければわかりません。採血をして血中LDL-C、HDL-C、TGの値をみます。この3つの値のいずれかひとつでも表にあてはまれば、自動的に脂質異常症と診断します。

脂質異常症(高脂血症)の診断基準値(動脈硬化性疾患予防ガイドライン 2012年版による)
LDLコレステロール
(LDL-C)
140mg/dL以上 高LDLコレステロール血症
HDLコレステロール
(HDL-C)
40mg/dL未満 低HDLコレステロール血症
中性脂肪
(トリグリセライド、TG)
150mg/dL以上 高トリグリセライド血症

高脂血症(脂質異常症)になると、何が困るのですか

脂質異常症(高脂血症)になると動脈硬化が始まります。すると動脈内腔が細くなり、また壁が凸凹になるために血球が引っかかって血栓ができやすくなります。そうすると、末梢へ運ばれる動脈血が減り、末梢は酸欠に陥ります。
動脈硬化が心臓の冠状動脈に起こると狭心症や心筋梗塞になります。脳の動脈に硬化が起これば、脳が酸欠になります。これが脳梗塞なのです。
他に脚の動脈に起こった場合、今度は脚が酸欠になり、しびれや痛み、歩行障害が起きます。最悪の場合、脚が壊死してしまうので、脚を切断しなければなりません。
腎臓へ行く動脈(腎動脈)に硬化が起これば、腎臓へ行く血流が減り、腎臓は「全身の血液が足りない」と判断します。そこで腎血流を増やそうと、高血圧になります。

表2.高脂血症(脂質異常症)・肥満およびそれに準ずるものに保険適応になっている主な漢方薬の一覧表(ーカーによって標記に若干差があります)
漢方薬名 どういう徴候・症状・体質(=証)に用いられるか
防風通聖散 脂肪ぶとりの体質で腹部に皮下脂肪が多く、便秘し、尿量減少するものの次の諸症に用いる:便秘、胃酸過多症、腎臓病、心臓衰弱、動脈硬化、高血圧、高血圧の随伴症状(動悸、肩こり、のぼせ)、脳溢血、これらに伴う肩こり、肥満症、むくみ
大柴胡湯 肝臓部の圧迫感があり、またはみぞおちが硬く張って、胸や脇腹にも痛みや圧迫感があり、便秘するもの、あるいはかえって下痢するもの、耳鳴、肩こり、疲労感、食欲減退などを伴うこともあるものの次の諸症に用いる:高血圧、動脈硬化、常習便秘、肥満症、黄疸、胆石症、胆囊炎、胃腸病、気管支喘息、不眠症、神経衰弱、陰萎、痔疾、半身不随
大承気湯 腹部がかたくつかえて、あるいは肥満体質で便秘するものの次の諸症に用いる:常習便秘、急性便秘、高血圧、神経症、食当り
防已黄耆湯 色白で筋肉軟らかく水ぶとりの体質で疲れやすく、汗が多く、小便不利で下肢に浮腫をきたし、膝関節の腫痛するものの次の諸症に用いる:腎炎、ネフローゼ、妊娠腎、陰嚢水腫、肥満症、関節炎、癰、癤、筋炎、浮腫、皮膚病、多汗症、月経不順

3.糖尿病

糖尿病とはどういう病気ですか

食事で摂った炭水化物、たんぱく質、脂質などの栄養素は、消化吸収されて一部がブドウ糖(グルコース)になります。とくに炭水化物はほとんどが糖となり、その大部分を占めるグルコースは血液中を巡りはじめ、血液中のグルコースの濃度(血糖値)が上昇します。すると、血糖を下げるホルモンであるインスリンが膵臓から分泌され、これが筋肉や肝臓に作用することによって血液中のグルコースが筋肉や肝臓に取り込まれますので、血糖値は上がりすぎることなく、また下がりすぎることもなく、70-110mg/dlという範囲に保たれるように調節されています。
この血糖調節機構、とくにインスリンによるものが何らかの原因で破たんすると、血糖値がぐんぐん上がり、およそ170 mg/dlを超えると血液中から尿に糖が漏れて出てくるのです。
現在のわが国で糖尿病が強く疑われる人の割合は、男性の15%、女性の10%もいて、増加の一途をたどっています。

糖尿病の診断

糖尿病は初期には何の症状も起こしません。しかし高血糖状態が続くと、体は尿からグルコ-スを捨てようとしますので多尿、頻尿になります。すると今度は水と糖が捨てられたために、喉が渇き糖分が異様に欲しくなります。また、血液中のグルコースが筋肉に取り込まれにくくなるため、疲れやすくなります。

  • (1) 空腹時に測定した血糖値(空腹時血糖値)≧126mg/dL
  • (2) 検査用のブドウ糖液を飲んだ2時間後に測定した血糖値(ブドウ糖負荷試験2時間値)が200mg/dL以上
  • (3) 食事の時間に関係なく測定した血糖値(随時血糖値)≧200mg/dL
  • (4) HbA1c≧6.5%

糖尿病の種類

糖尿病は大きく次のように分けられます。

●1型糖尿病
膵臓でインスリンが作られなくなって起こる糖尿病です。日本では糖尿病全体の数%程度です。
●2型糖尿病
インスリンはあるのに、太り過ぎ、食べ過ぎ、運動不足、喫煙、飲酒、ストレスなどによって筋肉や肝臓におけるインスリンの効きが悪くなりる結果、インスリンの所要量が多くなったり、インスリンの分泌のタイミングがずれたりして起こる糖尿病です。糖尿病の大部分がこちらです。
●二次性糖尿病
ほかの病気、例えば甲状腺機能亢進症(バセドウ病)や副腎皮質機能亢進症(クッシング症候群)、慢性膵炎、膵がんや、副腎皮質ステロイド薬、経口避妊薬などの薬で起こる糖尿病などもあります。

糖尿病になると、何が困るのですか

血糖が高すぎると、血管がやられてダメージを受けるのです(糖毒性)。眼の網膜がやられると失明します(糖尿病性網膜症)。神経がやられると足や手にしびれや痛みが続くようになります(糖尿病性末梢神経障害)。腎臓がやられると腎不全になり透析が必要になります(糖尿病性腎症)。ほかにも、大きな血管がやられると狭心症、心筋梗塞、脳卒中などを起こし命に関わります。脚の動脈がやられると、壊疽になって切断しなくてはならないこともあります。また、感染症を起こしやすくなり、高齢者では肺炎などで命取りになりやすいのです。糖尿病自体で困るのではありません。このような合併症で困るのです。

表3.糖尿病およびその症状に対し保険適応になっている主な漢方薬の一覧表(メーカーによって標記に若干差があります)
漢方薬名 どういう徴候・症状・体質(=証)に用いられるか
大柴胡湯 比較的体力のある人で、便秘がちで、上腹部が張って苦しく、耳鳴り、肩こりなど伴うものの次の諸症に用いる:胆石症、胆のう炎、黄疸、肝機能障害、高血圧症、脳溢血、じんましん、胃酸過多症、急性胃腸カタル、悪心、嘔吐、食欲不振、痔疾、糖尿病、ノイローゼ、不眠症。
五苓散 口渇、尿量減少するものの次の諸症に用いる:浮腫、ネフローゼ、二日酔、急性胃腸カタル、下痢、悪心、嘔吐、めまい、胃内停水、頭痛、尿毒症、暑気あたり、糖尿病。
八味地黄丸 疲労、倦怠感著しく、尿利減少または頻数、口渇し、手足に交互的に冷感と熱感のあるものの次の諸症に用いる:腎炎、糖尿病、陰萎、坐骨神経痛、腰痛、脚気、膀胱カタル、前立腺肥大、高血圧。
白虎加人参湯 のどの渇きとほてりのあるもの。

高血圧、脂質異常症、糖尿病の3つの生活習慣病に共通するものとは

高血圧、脂質異常症、糖尿病の3つの病気は全く別々のものですが、これらの病気自体よりも、それぞれの結果によって起こる動脈硬化が、生命を脅かす共通の問題です。動脈硬化によって心臓病、脳卒中が起こりやすくなるのです。これらだけで日本人の死因の約3分の1を占めますので、高血圧、脂質異常症、糖尿病は大変恐ろしいものだということがおわかりでしょう。
また、これらの病気は単独で起こることももちろんありますが、2つまたは3つが併発することも多いものです。とくに、併発した場合は動脈硬化を起こす確率が跳ね上がりますから、どれかひとつの病気を治療すればよいというより、すべてをまとめて予防~治療するという総合的な考えかたが重要です。

漢方にできること

残念ながら、漢方には血圧を下げたり、コレステロール値や血糖値を下げたりする力はそれほどありません。血圧であれば、軽度なら漢方薬のみで対処できる場合はあります。脂質異常症や糖尿病に関しては、適切な減量への補助、合併する糖尿病性神経症の症状緩和などに使うことがよくあります。