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かぜの漢方

風邪とは?

風邪(かぜ)。誰でも一度はかかったことがあるでしょう。
というより、年に何度か訪れる、歓迎されない訪問者のひとつですね。

風邪は風の邪と書きますが、これには意味があります。

漢方では、自然界に存在する「気」が体へも作用すると考えます。
その「気」には「風(ふう)」「寒(かん)」「熱」「湿」「燥」の5種類があるとします。
「熱」を「暑」と「火」に分けることで、合計6種類とすることもあります。

そして、それらの「気」は、場合によっては体へ悪い作用もきたします。
そのとき、「気」は「邪」と呼ばれます。
「風」という気が、悪さをするときは「風」という邪と捉えるのです。
このとき、この邪を「風邪(ふうじゃ)」と呼ぶのです。

「ふうじゃ」というのは吹き付ける風のように、身体を襲います。
とくに身体の上のほう、頭を直撃します。
頭痛がします。
それから、ぞくっと寒気がします。
かぜの初期症状です。
このページでは、以降、風邪と書けば「ふうじゃ」のことを指します。かぜは「かぜ」と書きます。

かぜの治療に使う漢方薬

かぜといえば葛根湯(かっこんとう)
ほとんどの方がご存知でしょう。
私も小さい頃から飲んでいたので、知っていましたが(漢方薬では葛根湯以外に知りませんでした)、葛根湯は実は、漢方医学的には風邪薬としてはそんなに一般的なものではないのですね。
葛根湯は、漢方の古典「傷寒論」に登場する薬ですが、登場順はなんと15番目です。
最初に登場するのは桂枝湯(けいしとう)です。
桂枝湯をご存知ですか。

桂枝湯(けいしとう)

桂枝(けいし)・芍薬(しゃくやく)・大棗(たいそう)・生姜(しょうきょう)・甘草(かんぞう)の5つの生薬からなります。

風邪(ふうじゃ)が体表を襲ったとき、ぞくっとします。
漢方ではこういう状態を、「風邪にあたった」という意味で、中風(ちゅうふう)といいます。
さらに頭痛がします。ちょっと寒気がすると鼻水が出ます。
そのうえに何となくむかむかするようなときに、桂枝湯が良い、と「傷寒論」には書いてあります。
「傷寒論」は2,000年ほど前の医学書ですが、記述は正確無比で、いまでもこの通りに使うと効果がきちんと出ます。

桂枝は、植物としてはシナモンと一緒ですが、もっと薬として効果が出るものを用いています。
桂(カツラ)の若枝です。
汗をかかせたり、体表の血流を増やしたりします。
頭痛にも効果がある生薬です。
近年では代わりに桂皮(けいひ)が用いられます。
桂の樹皮ですね。
芍薬は、筋肉のけいれんを抑えたり、汗の出過ぎを抑えたりします。
大棗以下は、お腹を整える薬です。とくに生姜は、発汗を促すとともに、吐き気を抑えます。
これら5つの生薬が絶妙に作用しあって、風邪を治します。
「傷寒論」には、桂枝湯を飲んだらお粥(重湯)を摂るように書いてあります。
これで穀物のもつ気(穀気)をいただこう、ということですが、早い話が「栄養を付けましょう」ということです。

桂枝湯の名前を聞いたことはありますか?
じつはこの桂枝湯が、かぜの漢方薬としては基本中の基本とされています。
というより、すべての漢方薬の基本形という人もいます。
漢方医は、まず桂枝湯から処方のしかたの勉強を学ぶのです。

ならば、なぜ葛根湯のほうが桂枝湯より有名なのでしょうか。

ひとつには、桂枝湯が使えそうなかぜの方が、そんなに多くないから、というのが挙げられるでしょう。
あるいは、葛根湯のほうが便利だから、というのもあるでしょう。
(私はこの説を採ります)
葛根湯は、後で述べますように、桂枝湯と麻黄湯を合わせたような(?)漢方薬で、どのようなかぜにもそれなりに対応できるから、というのが大きいのだと思います。
何にでも~というのは、効果もそれなりに~であるわけで、これは仕方がないでしょう。

実際に、私も桂枝湯を処方することはあまりありません。
葛根湯もそんなに処方しません(別の用途で、はありますが、これは後述します)。

麻黄湯(まおうとう)

こちらはご存知の方もおられるでしょう。
インフルエンザへの効果で、比較的最近になって脚光を浴びたものです。
麻黄(まおう)・桂枝(桂皮)・杏仁(きょうにん)・甘草の4つの生薬からなります。

麻黄湯は、ゾクゾクと寒気がして、歯がガタガタなるようなふるえ(悪寒戦慄:おかんせんりつ)があり、手足の節々が痛くなるような場合によいと、これも「傷寒論」には書いてあります。
漢方では、こういう状態を、「風邪(ふうじゃ)に寒邪(かんじゃ)が加わって襲い掛かってきた」と考え、「傷寒」といいます。
「寒に傷られる」という意味です。
現在のインフルエンザで、熱が上がる前にちょうどこのような症状がみられますね。

麻黄は、皮膚を引き締めて熱の放散を防ぎ、汗が漏れないようにします。
そうすると熱がこもり、体温が上がります。
さらに、交感神経刺激作用があるので、これで脂肪を燃焼し、体温を上げます。

熱があるのに、さらに熱を上げる薬をのんでよいのか、という疑問があるでしょう。
に、熱があるときには解熱剤を飲む人もいるでしょう。
医学的には、こういう場合に解熱剤を飲むのはよくありません。
せっかく体の免疫細胞たちが、侵入したウイルスを殺そうとして熱を上げているのに、それに文字通り水を差すからです。
解熱剤を飲むと一時的に気分がよくなりますが、ウイルスは残っているので、結局は病気が長引きます。
もっとも、高熱で体力が消耗するのを防ぎ、解熱したときに食事をとって体力をつけ、さらに病気と闘うといった利点はありますので、そういう意味では、解熱剤を完全否定するわけではありません。

桂枝は、先に述べたように、汗を出させますので、これで解熱します。
麻黄で体温を上げてウイルスを殺し、その後桂枝でサッと発汗させて熱を下げる。
麻黄+桂枝という、非常に合理的な作用を組み合わせたのが、麻黄湯なのですね。

麻黄には、上のような熱を生む作用のほか、気管支を広げる作用があります。
これで空気の流れをよくし、痰が多量に詰まって狭くなった気管(気管支)が通って、ゼーゼーという音が減るので、「治喘(ちぜん)」とか「平喘」作用と呼ばれています。

杏仁は、杏子の種ですが、咳止めの作用があります。
麻黄湯ではあまり期待されていない作用として、便を出す作用もあります。
甘草は、炎症を抑えたり、お腹を整えたり、薬をいくつか混ぜて使う場合に副作用を出にくくする、といった作用があります。

インフルエンザすべてが麻黄湯の合う症状をきたすわけではありません。
とくに、インフルエンザで高熱になる場合でも、悪寒がしない人もいます。
そういう方に麻黄湯を飲んでもらっても、効かないことがあります。
むしろ、麻黄のもつ交感神経刺激作用が裏目に出て、高熱で心臓がバクバク打っているときに、さらにこれに輪をかけて、病状を悪化させてしまうこともあります。

麻黄湯を使う一番のポイントは「寒証(かんしょう)であること」です。
寒証というのは、とにかく寒気がし、顔色も寒そうで、熱があるような症状(これは熱証(ねっしょう)といいます)が見当たらない場合を指します。
まあ、そうはいっても、インフルエンザに罹ったばかりならいざ知らず、「かかった!」と自覚できるのは熱が出てきてからですから、それでも麻黄湯が効いているところを見ると、熱があるような症状があっても使えることにはなります。
難しいですね。

銀翹散(ぎんぎょうさん)

これは保険適用になっていない漢方薬なので、なかなか馴染みがないでしょう。
しかし、かぜの治療に使う漢方薬としては、欠かせないものの代表のようなものです。
具合が悪いなと思ったら、喉が痛くなり、頭痛がして熱っぽい、咳も出る、そういうかぜのときによく用いられます。

銀翹散がよいのは「熱証」のかぜで、寒気がほとんどないのが特徴です。
ここが麻黄湯との大きな違いです。
ちなみに、初期に悪寒がするようなものを傷寒(しょうかん)、初期に悪寒がほとんどなくて熱が顕著なものを温病(うんびょう)といって区別します。
温病は「熱邪」にやられた結果、だと考えるのです。

麻黄湯は傷寒の薬で、銀翹散は温病の薬ということになります。
傷寒の場合は麻黄などで温めるのでした。
温病の場合はすでに熱があるので、この場合は冷ますのです。
ただ、冷ますといっても解熱剤で冷ましてウイルスを蔓延させるのではありません。
そこが現代の薬と違うところで、銀翹散はウイルスを殺傷する働きも持っているようです。

金銀花・連翹・薄荷・牛蒡子・淡豆鼓・桔梗・荊芥穂・淡竹葉・羚羊角・甘草という10種類の生薬からなります。
いずれも炎症を抑え、熱を下げる効果があるものばかりです。

葛根湯

お待たせしました。葛根湯です。 これは、桂枝・芍薬・大棗・生姜・甘草の5つの生薬(以上で桂枝湯です)に、麻黄湯を(麻黄・桂枝・杏仁・甘草)を足し、重なるものは落とし、杏仁を除き、葛根を加えたものです。
もっと簡単に言うと、桂枝湯+葛根+麻黄です(分量は若干変わります)。

桂枝湯・麻黄湯の合うどちらのタイプのかぜにも(それなりに)効きます。
葛根が加わっていますので、これがコリによいのです。
つまり、肩こりのあるかぜによいわけです。
かぜではなくても、肩こりの方にも用います。

麻黄附子細辛湯(まおうぶしさいしんとう)

これも実はよく用いられます。
麻黄というのは、体の表面近くを温める薬でした(→麻黄湯参照)。
これに、細辛・附子という体内を温める薬を加えたものが、麻黄附子細辛湯です。
つまり、全身を表裏ともに温めるわけですから、全身が表裏ともに冷えている方に用います。
麻黄附子細辛湯の効能にはよく「なんとなくだるいかぜの人に用いる」というのがありますが、全身が冷えていれば、自然と動きたくなくなります。意識も朦朧としてきます。
麻黄附子細辛湯で温めて機能回復させるのです。

かぜの予防について

治療の前に、予防というのが正しい順序では?
風邪でもなんでも、病気は予防が大切です。

予防していても病気になった場合に、初めて治療が出てきます。
予防の大切さは古典でも繰り返し言われています。

漢方の古典では、「病気が起こる前に治すのが上級の医者、起こってから治すのは中級以下の医者」といいます。

さて、予防は大事なのですが、残念なことに日本の健康保険制度はかぜの予防をカバーしません。
つまり「かぜの予防のために漢方薬を処方してほしい」と病院に行っても、保険診療が受けられないのです。

ですから、この予防という部分はきわめて大切なことなのですが、保険診療というくくりで治療している当院のホームページでは、予防のことを後に書いています。

かぜの予防に使う漢方薬

じつをいうと、そんなものはありません。
全然ない、というのではなく、そういう目的で作られていないという意味です。
結果的にかぜの予防効果のある漢方薬はいくつかあります。

例えば、補中益気湯(ほちゅうえっきとう)という漢方薬があります。
漢方をかじった方ならだれでもご存じでしょうが、この薬はかぜ以外にも、感染症全般に予防効果がみられます。
入っている生薬は、黄耆・人参・茯苓・白朮・甘草・大棗・陳皮・柴胡・升麻・当帰の10種類ですが、下線部分は四君子湯(しくんしとう)と共通です。
四君子湯は人参・茯苓・白朮・甘草・大棗・生姜です。これは漢方でいう脾を補う薬、です(おなかの項を参照)。
脾を補えば、気が自然と満たされる、と漢方では考えます。
「補中益気湯」というのは、おなかを補い気を増す薬という意味です。

「気」はエネルギーという話を別の項でしましたが、「気」の一部は体を防衛する機能を担います。
衛気ともいいます。
かぜをひくのは衛気がよわいから、というのも原因のひとつです。
つまり、「気」を満たすことが、かぜの予防にもつながるわけです。

当院の漢方治療が「脾胃を重視する」ことの重要性が、ここでもお分かりになると思います。